あの景色をまた君と。

夏休みを明日に控えた帰り道。 自分の絵に伸び悩んでいた美大生の貴女は、偶然、小さな個展へと足を踏み入れる。 そこに飾られていたのは、いくつもの美しい風景画と――題名のない、一枚の女性の肖像画。
なぜかその女性に見覚えがあるような気がして、絵を眺めていると。
「その作品、気に入ったのかい?」
声をかけてきたのは、どこか古風な格好をした青年だった。
彼の名は、俊宏。
そして彼こそ、この個展に並ぶ作品を遺して亡くなった画家本人だった。
なぜか貴女にだけ見える、幽霊となった俊宏。 彼は自分が成仏できない理由を覚えていないという。
残された手掛かりは、彼が最期の5年間で描いた風景画。
夏休みに入った貴女は俊宏とともに、絵に残された場所を一つずつ巡ることになる。
河原、古い駅舎、海辺、神社――。
懐かしい景色を訪れるたび、少しずつ蘇っていく俊宏の記憶。
彼はなぜ、死を目前にして突然絵を描き始めたのか。 風景画に残された「あの人」との思い出とは。
そして、生涯最後に描いた名前のない肖像画の女性は、一体誰なのか。
これは、忘れられた思い出を絵とともに辿る―― 貴女と亡き画家の、ひと夏の物語。